金融ビジネスで重要度を増す数理知識

研鑽を重ね、新たな知識を身につけながら
クオンツとして最前線を担い続ける。

鈴木 葵
01.求められていることは何か
研究と実務の違いを痛感
私は大学・大学院を通して数値流体力学を研究していました。空気や水などの流体のふるまいをコンピュータによるシミュレーションによって解析するという学問です。将来はロケットや人工衛星を開発する宇宙産業に携わりたいと思っていました。ただ、本格的に就職活動を始める前に他の業界も見ておきたいと思い、コンサルティング会社や金融機関のインターンシップに参加したんです。そのとき金融機関にはクオンツという仕事があり、数理知識が活かせることを知りました。思ってもいない身近なところに活躍できる場があった。元々高校生の頃から数学は好きでしたし、知識を深めながら人々の暮らしの役に立つことができるなら金融機関で働きたいと思いました。中でも国内トップバンクの当行であれば成長の機会も多いと思って入行を決断しました。
入行後は、モデル開発を担うラインに配属となり、デリバティブの市場リスク計測モデルの開発を担いました。物理現象を数理モデルに落とし込み、プログラミングを使ってコンピュータで解くという作業は学生時代に慣れ親しんだもので、その点では入りやすかった。しかし、理論を実務に落としこむことの難しさを痛感させられました。例えば学生時代の研究であれば、パラメータはいったん理想的なものを置くというかたちで進められますが、銀行の実務ではそうはいきません。計算に要する時間にも配慮がいります。モデルを精緻にすればそれだけ計算時間が長くなる。しかし、長すぎたら実務には使えません。求められているのは「モデルの美しさ」でも「高度に精緻なデータ」でもない――これは入行間もなくの大きな学びであり、同時に研究を実務に役立てていくという新しい価値の発見でもありました。
02.トレーディングを担うフロントを支え
お客さまのニーズに応える
2年ほどモデル開発ラインで仕事をした後、同じリスク統括部開発Grのモデル検証ラインに異動しました。フロントが開発した時価評価モデルや市場リスク評価モデルに対する審査や検証が任務で、現在も続けています。コンセプトの健全性、理論的な整合性、システム実装の正しさなどを一つひとつ確認していくのですが、私はエキゾチックデリバティブと呼ばれる一段と仕組みが複雑な商品に関する審査を担当することが多いため、どの案件も内容の理解が難しい。しかも、審査のためには、金融当局による規制や行内ルールの最新の内容もしっかり理解し、それが守られているかどうかを確認することも必要です。非常にチャレンジングですが、一つ審査をするたびに新たな知識やスキルを獲得することができる、という充実感があります。自分が審査したモデルで後日トレーダーから「約定できました」「顧客に喜んでもらえた」という報告があったときは励みになります。フロントからの承認申請の背後にはお客さまの存在があり、間接的ではあるけれども、審査業務を通してお客さまの役に立ち、当行の業績向上に寄与しているということが実感できるからです。
鈴木 葵
03.VaRモデルの検証で
経営層の財務戦略立案に貢献する
審査業務の一環として、三菱UFJ銀行及びMUFGのトレーディング業務の内部管理に用いる市場リスク計測モデル(VaR※)に関する審査を担ったことがあります。通常のモデル審査は単一の商品について行いますが、この案件は、MUFGグループが保有している商品に対する現行VaRモデルの変更にあたって、その妥当性を審査するというものです。グループ全体の非常に広い範囲の商品に対する知識やそれぞれの時価評価モデル、市場リスク計測モデルに関する知識が求められました。また、このVaRモデルは経営層が、市場リスクを予測し、それにふさわしい財務戦略を立てる上で欠かせないものです。経営判断に直結する業務であり大きな緊張感がありました。入行以来自分が蓄積してきた知見を総動員してスケジュール通りにやりきったことは、大きな達成感につながり、忘れられない仕事になりました。
リーマンショックをきっかけとする世界金融危機の教訓から、金融機関にはより高い財務の健全性・経営規律が求められるようになり、さまざまな規制が策定・導入されています。2023年にはバーゼル?が最終化されることが決定しており、私はその対応の担当者に指名されました。世界中の金融機関が今まさに知恵を絞っており、新たな知識のキャッチアップも欠かせません。これからも自己研鑽に励み、信頼されるクオンツとして金融ビジネスの最前線を担っていきたいと思います。
※VaR:Value at Risk。市場全体の変動によって生み出される保有資産の予想最大損失額