芳賀:プロジェクト当時、私はファイナンシャル・アドバイザー、神田さんはアレンジャーという立場の違いはあったけれど、同じ部署で大規模なプロジェクトファイナンスに関わっていました。最近では、日本初となる大型洋上風力発電所の建設資金として約1000億円のファイナンス契約の締結を一緒に実現したところです。あらゆる事業にはお金が要ります。特に電力・インフラプロジェクトは、巨額の資金が必要になる。そこで事業者はプロジェクトファイナンスと呼ばれる融資により資金を調達することになります。この融資が実行できないと事業が実現できない。で、ここからがアドバイザーとしての私の出番になります。どうすればスムーズに借り入れができるかを、事業者の側に立って助言します。こういうところに気をつけると銀行はお金を出しやすいですよ、といった具合。そして神田さんが登場する。
神田:私は資金を貸し出す側を代表して取りまとめるアレンジャーと呼ばれる立場です。本当にこのプロジェクトは順当に収益を上げて融資を返済できるのか、事業計画や関連する契約書を細かくチェックします。事業者側の芳賀さんに、ここはどうなっているの?と問い合わせることも多いですね。
芳賀:こちらは「大丈夫。問題ありません!」と言いたい。でも神田さんは「本当に?」と突っ込みたい。同じ銀行の行員同士でも立場は正反対だから、時々大げんか(笑)。でも目的は一緒なんですよね。プロジェクトの成功のために、何とかファイナンス契約を結び融資を実現したい。
神田:そうです。発電所のような社会インフラは多くの人の生活の向上に結びつくし、新たな産業の育成という社会的な使命も担っています。再生可能エネルギー事業は環境への貢献も大きい。だから積極的に資金を貸すべき。貸さない理由を探すためではなくて、貸せる条件を整えるためにチェックするわけです。そういう意味ではアドバイザーとアレンジャーは同じゴールをめざしているんですね。
※プロジェクトファイナンスとは
銀行の資金融資は、一般にはコーポレートファイナンスとして、企業に対して行われる。そのため貸し付けの審査は財務諸表などで企業自体の信用性・安定性などを踏まえて総合的に判断する。他方、プロジェクトファイナンスは、企業ではなくプロジェクトに対して融資が行われる。返済の原資は、プロジェクトが生み出すキャッシュフロー。そのため貸し出す側は、プロジェクトを精査して事業の見通しを慎重に確認する。
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芳賀:私たちが携わった秋田県の案件は、日本で初めての大型洋上風力発電事業で、総事業費1000億円のほとんどをプロジェクトファイナンスで調達する計画でした。
神田:芳賀さんが事業者側のアドバイザーになって奮闘されていることは知ってました。芳賀さんは以前、ロンドンに派遣されて、欧州が最先端である洋上風力発電について勉強してきましたよね。そんな芳賀さんの得意分野だから、きっとファイナンス契約はまとまるだろうと。
芳賀:でも大変だったんです。洋上風力発電は、自然相手に建設や運営を行うし、登場人物も多くて難しい。風はちゃんと吹くのか、基礎工事は誰、風車の据付工事は誰、電気設備工事は誰と施工者も細かく分かれる。誰とどう責任を分担して契約をするか、とても複雑で、しかしここがクリアじゃないと銀行はリスクを感じて貸せなくなる。ロンドンで学んだことはもちろん役に立ちました。でも、日本には日本の事情がある。私自身、最初は欧州流でやろうとしてうまくいかなかった。
神田:例えば日本は港湾の利用についての法整備が遅れてましたね。自治体の港湾課の取り組みがどうなるのかも不確定要素だった。
芳賀:日本初の難しさはいっぱいありましたね。でも、逆にいえば、これが成功すれば次に活きる。ノウハウが蓄積できて洋上風力発電事業が日本で広がっていく突破口になるという思いはずっとありました。
神田:私もアレンジャーという立場でそれは感じていた。これが次の洋上風力発電事業につながっていくだろうと。どんなに社会的な意義がある事業でもファイナンスがうまくいかなければ絵に描いた餅です。何とかしたいという気持ちは強かったですね。
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芳賀:神田さんは秋田県庁の担当課も訪問したんでしたよね?
神田:行きました。ものすごく大きなお金を、まだ建設も始まっていない事業のために融資するわけです。しかも今回は、15の銀行によるシンジケートローンになるから、責任を持って各行に説明できなければいけない。県庁を訪問したのは、事業海域の運用に携わる自治体がこのプロジェクトをどう見ているか知る必要があると思ったからです。
芳賀:そこに入っていくのは神田さんらしいなと思いました。一方で、論理的にきちんと積み上げつつ、人の思いの部分もおろそかにしない。
神田:定量的ではないんですが、どのくらいの熱意なのかを肌で感じることって、最後の判断をするときに大事なんです。これって契約書には落とし込めない。でも、熱意を知って、それを僕の言葉で行内の審査部や他行の人に伝える。
芳賀:プロジェクトファイナンスのおもしろさって、そこですよね。
神田:財務諸表から企業の健全性を定量的に評価して、担保を取って貸すだけなら、AIでもある程度できます。プロジェクトファイナンスはそうはいかない。だからおもしろいし、やりがいがあります。僕自身がプロジェクトの担い手のひとりになって、事業者と一緒に走るわけだから。もちろん、資金の出し手としての冷静さは失ってはいけないけれど。
芳賀:時々冷静になって私に「あのままでは貸せませんよ」と怖い顔で詰め寄る(笑)。
神田:それはそうです。それが僕の仕事なんですから(笑)。
※シンジケートローンとは
顧客の資金調達ニーズに対して、アレンジャーが複数の金融機関を取りまとめて企業連合(シンジケート)を組成し、1つの契約書に基づいて貸し出しを行う融資形態。
神田:芳賀さんがこれからやりたいことって何ですか?
芳賀:私は中学生の頃にインドに住んでいたことがあります。日本との貧困の差にかなりカルチャーショックを受けたことがあって。そのときの経験から、何かしら社会の発展に寄与できるようなことにグローバルな視点で貢献したいと思っていました。海外のインフラ案件とか今回の洋上風力発電事業は、まさにそういう仕事なので、これからもどんどん取り組んでいきたい。神田さんは?
神田:僕も大きなインパクトのある仕事をしたいと思ったことが銀行員になったきっかけでした。再生可能エネルギーというのはこれからも大きく広がっていく分野だと思うので、そこにも携わっていきたいけど、それに限らず、今、社会はいろんな面で変換期を迎えていて、新たなビジネスチャンスも生まれている。新しいチャレンジをファイナンスの面から引っ張っていきたいと思います。そのためには事業者であるお客さまにとっての安心感というか、資金調達という最後の部分をしっかり委ねてもらえる存在であることが求められると思う。常に頼られる存在でありたいですね。
芳賀:私たちは土木のプロでもないし、開発のプロでもないけれど、金融のプロであり、プロジェクトの実現を左右する資金の出し手として社会的使命を担っているわけです。これは大きなやりがいですよね、こういう仕事ってなかなかない。今さらだけど銀行員って楽しいと思う。
神田:うん、めちゃくちゃおもしろいですね。




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部活何してた?
芳賀:高校、大学とチアリーディング部に所属してました。チームワークの大切さと楽しさを学びました。
神田:大学時代に始めたカーリング競技です。今でも現役として週末や休暇を使ってクラブチームのメンバーとして活動しています。 -
どんな学生だった?
芳賀:留学や海外でのフィールドワークを積極的に行ったり、いろんな国の人と関わることが多かったですね。
神田:カーリングもそうですが、好きなことに対しては、人一倍時間をかけてのめり込むタイプでした。 -
社会人になってから気持ち
の変化はあった?芳賀:変わらないですね。入社してから、熱い想いを持ってグローバルにビジネスを実践している先輩や上司を見て、さらに想いが強まった感じです。
神田:良くも悪くも「甘え」が許されない環境になったので、学生時代と比較して日々の緊張感がまったく変わりましたね。でも、それが成長の原動力にもなりました。 -
仕事中の息抜き方法は?
芳賀:同僚とランチに行くことですかね。
神田:外訪の往復で歩くようにしてます。外で人間観察をしたりとか(笑) -
座右の銘やモットーは
ある?芳賀:座右の銘ではないですけど、グローバルな環境でも遠慮せずハッキリ意見を言える日本人でありたいなと思ってます。
神田:「誠心誠意」っていう言葉がすごく好きです。三菱UFJ銀行に入社を決めた理由も、面接で話をした先輩行員から誠実さをすごく感じたからなんです。 -
3年後はどうなっていたい?
芳賀:今まさにいろんな案件を通して成功体験を積み上げてきているところなので、3年後はよりチャレンジングな案件に挑戦していたいですね。
神田:3年後だとプレイヤーからマネジメントに近づいていくので、自分の役割を他の人に担ってもらいながらさらに強い組織になるように貢献していきたいです。