PROJECT STORY

プロジェクトストーリー GFCDテクノロジー・プログラム

アンチマネーローンダリング
システムを高度化
お客さまを金融犯罪から守る

マネーローンダリングやテロ資金供与の防止、経済制裁や贈収賄・汚職防止に関わる規則の遵守などのグローバル金融犯罪対策を強化するため、三菱UFJ銀行は2017年にニューヨークを本部とするグローバル金融犯罪対策部(GFCD)を設置した。主要な活動の1つにアンチマネーローンダリング(AML)システムの高度化をめざす「GFCDテクノロジー・プログラム」がある。年間数十億円を投じる巨大なプロジェクトだ。

MISSION 3システムを統合する
グローバルプラットフォームを構築

麻薬取引や人身売買、国際合意に反したミサイルや核開発、汚職などの問題を解決し、平和で安定した国際社会を築くため、国際機関や各国政府はさまざまな取り組みを続けている。政治交渉や軍・警察による取り締まりもその一つだが、経済制裁を実効性のあるものにすることや、マネーローンダリングや違法送金を防ぐことによって犯罪集団の資金源を断つことも有効な対策だ。三菱UFJ銀行は、日本随一のコルレス銀行(海外送金における中継銀行)として、またウォルフスバーグ・グループ※の一員として、他の国際的な金融機関と共にグローバル金融犯罪対策の強化に取り組んでいる。その重要な取り組みの一つがAMLシステムの高度化だ。
AMLシステムには、大きく分けてKYC(Know Your Customer)、顧客スクリーニング、取引モニタリングの3つの領域がある。KYC は顧客に関する情報収集・リスク評価、顧客スクリーニングは制裁者やPEP(Politically Exposed Person:外国の重要な公的位置にある人物)、否定的報道先に該当する顧客の洗い出し、取引モニタリングは、疑わしい取引をルールや過去取引のプロファイルによって検知することをさす。従来これらは、それぞれ独立したシステムとして各国拠点ごとに開発され、運用されてきた。
しかし、年々巧妙化する犯罪手口に対応するためには、この3システム間の情報連携が欠かせない。AMLのプラットフォームを構築してKYC・顧客スクリーニング・取引モニタリングの各業務を連携して実施し、かつグローバルにデータの管理・統制を一層適切に行うことが求められた。また、すでに各拠点においては3領域それぞれで既存のシステムが稼働している。ここに蓄積されたデータを新システムにスムーズに変換し移行することも必要になる。「GFCDテクノロジー・プログラム」プロジェクトは、3システムの統合と海外40拠点への一斉導入という規模の大きさとともに、既存システムからの円滑なデータ移行という難しいテーマを担っていた。
※ウォルフスバーグ・グループ:グローバル金融犯罪リスク管理の枠組み構築を目的とする13の国際的な金融機関からなる非政府組織

PROCESS 各国事情や規制変更への
対応も不可欠

「GFCDテクノロジー・プログラム」の難しさは、その規模と移行のプロセスにあっただけではない。
AMLについては世界で共通する規制レベルに加え、各国当局が定めている規制がある。その為、銀行の事務手続きも各国でスタイルが異なる。そのため、海外40拠点を横断する新たなAMLのプラットフォームは、グローバル標準に対応する部分と各国のローカルルールや事務に対応する部分の2つを備えなければならない。さらに、犯罪手口の変化に応じて各国で行われる規制内容の変更にも容易に追随できる拡張性を持ち、安定して規制当局の要求を満たし続けるものでなければならなかった。一方で規制業務のグローバル水準への統一を行いながら、同時に国毎の規制に対応したカスタマイズを可能にする——この点でもシステム開発は非常に難易度が高いものだった。
さらに、GFCD本部がニューヨークに置かれていることにも示されているように、AMLの先頭で標準的な規制を敷いているのは米国である。そのため、このプロジェクトも、米国の目線に合わせる必要があった。しかも、AMLの要件を出すニューヨークの本部のユーザに加えて、実際に開発を行うパッケージベンダーやMUFG内のベンダー、各国の関連部署など、関係者は非常に多く、関係者毎にバックグラウンドやITの知見、金融犯罪対策業務の知識は異なっている。それらを組み合わせ、限られたスケジュールのなかでより多くのユーザが満足するシステムを開発しなければならない。
2018年に検討が開始されたプロジェクトは、銀行・MUFGグループのIT会社・複数のベンダーのIT会社が参画。複数拠点毎にグループに分割したうえで新システムの導入を図っていくことにしている。グローバル共通と最初に導入する3拠点をカバーするものをグループ1として先行し、順次、導入する拠点特有の要素を入れ、グローバル共通部分もレベルアップさせながらグループ2・3・4と開発・導入を進めていく計画だ。取り組みは今まさに佳境を迎え、2021年8月には、グループ1と2がリリースされる。

SPEAKER

床枝 慧

KEI TOKOEDA

床枝 慧
あなたの役割は?
私は入行後2年半ほど営業店で法人営業を経験した後、システム部に異動、着任当初からAMLチームに参加しました。現在のプロジェクトに加わる前は、海外拠点への取引モニタリングシステムの導入業務に長く携わりました。ただ、システム開発のなかでは、後半のテスト〜リリース工程を担当することが主だったので、「現在の経験や反省を活かして上流工程業務に携わりたい」という思いが強くなり、それを上司に伝えたところ、2019年1月に始まったグループ1の基礎検討から参画することになりました。2020年4月までは取引モニタリングシステムラインのラインリーダーを担い、5月からはグループ3の案件リーダーを担当しています。特に私が重点を置いて取り組んでいるのは、従来3システムとして独立して稼働していたKYC・顧客スクリーニング・取引モニタリングシステムの横断的確認による品質向上です。
プロジェクトにおける困難は?
システム部門での業務経験も丸4年を超えた段階でのプロジェクトへの参加で、かつ最初の取引モニタリングシステム開発ではそれなりの成果を上げ、ある程度自信をもっていました。しかし、 本案件に参画した途端に“天狗のはな”をへし折られました。
それまで担当したシステムとは、規模も関係者の多さも考慮すべきポイントの多さも、まったく違っていたからです。システムをゼロから構築していく過程で意見を求められた際に、システム的な発想や見解がまったくといっていいほど出せませんでした。自分はただ、取引モニタリングという1つのシステムに詳しくなっていただけだったのです。リーダーとしてプロジェクトに貢献しなければならないという思いと、実際に自分が出せている成果との乖離が拡大し、自信喪失状態になりました。
しかし、そんな私の様子に気付いた上司が「これまでの経験のなかから、自分ができることを着実に積み上げてみたらどうか」とアドバイスしてくれ、それが立ち直る契機になりました。「どういう問題があり、どう克服してきたのか」について振り返りの表をつくり、それを現在の業務に落とし込んでいくことで、少しずつ主体性をもって取り組めるようになっていったのです。
それにしても、大きなプロジェクトであることから関係者が非常に多く、特にユーザ本部であるニューヨークとの交渉は難航しました。先方は、有力な外国銀行でAML業務を経験してきたベテランバンカーばかりです。例えば「口座」という極めて基本的な言葉一つをとっても、それぞれの業務経験により、口座に割り振られた個別の数字のことなのか、個人名のもとに統合済みの口座群のことなのか、“粒度”が異なっています。意思疎通は非常に難しかったです。思い込みを排してゼロベースで臨むことの大切さを痛感しました。まずは相手の提案内容をしっかり傾聴し、受け止めること。そして、予算やスケジュールの制約を勘案しながら代替案の有無を模索し、落としどころを探っていくというプロジェクト推進の基本が習慣化できたことは、私にとって大きな収穫だったと思っています。
このプロジェクトの意義とは?
AMLシステムのグローバルレベルでの統合・高度化は、先進事例として日本の金融業界のスタンダードをつくっていくプロジェクトであると思います。当行は日本を代表する金融機関としてベストプラクティスを確立することが期待されており、本件はまさに他行の先を行く取り組みです。しかも、MUFGは円貨のコルレス業務で大きなシェアを持っています。当行が金融犯罪対策に取り組むことは、日本の金融業界全体が取り組むことにほかなりません。また、金融犯罪対策にかかるコストは年々増加しており、今回の統合で、事務効率とシステム開発費用の両面からのコスト削減に成功すれば、金融業界の抱える構造的な課題への対応策ともなり得ると思います。
かつての営業店での業務経験は、たとえ100万円であっても収益を生み出すことの難しさを、身をもって教えてくれました。数百億円もの巨費を投じるプロジェクトに携わっていることにやりがいと責任の大きさを感じます。何としても新システムのリリースを安定的に行い、各拠点での業務を効率化・高度化させていかなければなりません。
グローバルな業務に広いフィールドで挑戦したいというのは、私の入行動機の一つでした。まさに今、日々ニューヨークやシンガポールなどの海外拠点とのセッションを通じて、グローバルに働く醍醐味を体感しています。この環境を飛躍台に、さらに成長していきたいと思っています。