PROJECT STORY

プロジェクトストーリー 住宅ローン構造改革

デジタル化でコスト構造を改革
住宅ローンの利便性と
収益性を高める

個人向け取引の中核商品である住宅ローンは、長く複雑な業務プロセスをもち、申し込みの受付から実行までさまざまな手続きを必要とする。しかもそれらの多くは「人と紙」をベースにしており、利用者には多くの書類作成や複数回の店舗訪問が求められ、銀行内でも審査業務や関係会社との連携に多くの手間を掛けている。こうした現状の業務プロセスをデジタル化によって改善し、利用者の利便性向上とコスト削減による収益拡大をめざすのが住宅ローン構造改革プロジェクトだ。

MISSION 審査の自動化とシステム統合による
業務効率化をめざす

住宅ローンは「事前審査」「正式審査」「契約・実行」という3つのフェーズから成り立ち、さらに返済終了まで長期間を要する“足の長い”商品だ。なかでも銀行の審査は時間を要し、マイホームを購入しようとする人が、「そもそも借り入れができるのか」「いくら借りることができるのか」をまず知りたいと思っても、回答を得るには時間がかかる。また、関係者も非常に多く、営業担当者、審査担当者、契約に当たる事務職員、さらには、保証会社や生命保険会社、損害保険会社も関係しており、業務プロセスは複雑だ。ネットバンクの出現や、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛により、お客さまの利便性向上や収益の増加が課題となっていた。
「住宅ローン構造改革プロジェクト」は、部分的なシステムの更改ではなく、中期経営計画が掲げる大胆なデジタライゼーション戦略に基づき、住宅ローン業務全体の構造を改革することを狙いとしていた。プロジェクトの規模は大きく、そのため開発内容ごとに分けられたさまざまなプロジェクトが集まったプロジェクト群として構成されている。その柱の一つが、AI審査やRPA (Robotic Process Automation)の導入による「審査の自動化」、もう一つが、銀行とMUFGグループの関連会社が使っているシステムの統合による「業務の効率化」だ。

PROCESS 個人向け中核商品の
利便性と収益性を拡大

住宅ローンの新規受付には、「Web」「不動産会社からの仲介」「銀行の店舗」の3つのルートがある。また、契約プロセスは、先に見たように「事前審査」「正式審査」「契約・実行」の3つのフェーズに分かれる。
「審査の自動化」プロジェクトでは、まず自動化の対象として「Webルートの事前審査」に取り組んだ。従来の人による審査に代えてAIを活用したシステムを導入、2020年にリリースした。これにより、少なくとも1日を要していた審査時間を2時間程度へと大幅に短縮。引き続き現在は、「Webルートの正式審査」の自動化を進めているほか、並行して同ルートの「契約・実行」の自動化に取り組んでいる。Web上での契約が普及すれば、来店が不要になるほか、従来求められていた契約書への印紙貼付が不要になり、ローンの借り手には大きな金銭的なメリットも生まれる。さらに「審査の自動化」プロジェクトのフェーズ2として、Web以外のルートの審査自動化に取り組み、住宅ローン全体の自動化を体系的に進めていくことにしている。
また、MUFGグループの関連会社との間でのシステム統合による「業務の効率化」においては、それぞれで使っている審査や管理用のシステムを一つひとつ突き合わせながら類似機能をピックアップし、重複を解消した統合システムをつくり上げた。現在は新システムのテスト段階に入っている。
三菱UFJ銀行の住宅ローンは、過去10年以上連続で取扱い額にて民間金融機関トップの実績を誇る。「人生最大の買い物」といわれる住宅購入を金融面で支えることは大きな社会的意義をもつものであり、デジタル化による業務改善は、利用者の利便性向上はもちろん、個人向け中核商品の収益性の拡大に寄与する重要な取り組みだ。

SPEAKER

川口 翔

SHO KAWAGUCHI

川口 翔
あなたの役割は?
私は入行後、個人資産家向けの総資産営業に6年、住宅ローンやアパートローンの商品改廃や、疾病保障付住宅ローンの商品開発、その他ローン付随商品の企画・管理業務に7年間従事しました。そこで感じたことは、当行はこれまで、複数の銀行が合併した経緯があり、旧行の多品種の商品が混在していること。また、より良いサービスの提供を目的に疾病保障付住宅ローンなどの新商品を投入した結果、営業店、本部の管理業務負担が増大し、コストが増加する傾向にあることでした。営業実務、商品企画・管理共に数年経験したため、次のステップとしてシステム側からこれらの課題解決に役立ちたいと考え、システム本部への異動を希望しました。ちょうど住宅ローン構造改革のプロジェクトが立ち上がっており、これまでの業務経験が活かせると考えて参画しました。
本プロジェクトでは、自動化プロジェクトに関するPMO(Project Management Office)、ビジネスデザイナーの一員として、全体のマネジメントを担っています。特に私は、銀行業務の経験者であり、ユーザとシステムの懸け橋となるべく活動しています。ユーザが求めることとシステムで実現可能なことの間には、往々にしてズレが生じます。また、仮に可能であったとしても、コストや時間との関係で採用できないケースもあります。限られた条件のなかで、どの機能に重点を置くかという判断はプロジェクトの成果に大きな影響を与えるものであり、そこに業務とシステムの両方を知る私が果たすべき役割があると考えています。
プロジェクトにおける困難は?
開発コストが想定を上回ることが判明し、ユーザ側から要望された一部の機能を断念せざるを得ない状態に陥ったことがあります。本プロジェクトでは、多数のシステムがAPI(Application Programming Interface)によって連携されているため、開発途上で変更が入ると、あらゆる機能に影響を及ぼし、コストが増大します。大規模かつ長期間にわたる開発では、開発中に変更を迫られることが少なくありません。その都度、進路変更が必要になり、ユーザ側との調整が不可欠になります。ユーザ側の立場に立てば、希望し、導入されると考えていた機能が実現しないということであり、その報告と調整は非常に心苦しいものがあります。銀行の業務を長く経験して、ユーザの落胆が分かるだけに、進路変更の交渉をしなければならない状況は、いたたまれないものがありました。
しかし、立ち止まっていても状況は打破できません。先述の通り、ユーザとシステムの懸け橋として、代替手段の検討とユーザとの合意形成を主導し、何とかプロジェクトを前に進めることができました。共通の目標に向かってプロジェクトメンバーを先導することが、私の役割だったと思っています。
このプロジェクトの意義とは?
デジタル化が加速し、ネットバンクでも住宅ローンの取扱いが増えてきており、MUFGにとっても利便性と審査スピードの向上は喫緊の課題です。本プロジェクトは、MUFGグループ内で最も注目されている大規模開発の一つです。
住宅ローンは、多くの人にとって一生に一度の大きな買い物である住宅購入を支えるものです。デジタル化による手続きのスピードアップや簡素化、さらに個人の資産状況や将来計画を踏まえた最適な住宅ローン条件の提案により、お客さまが安心して住宅を購入できるようになることは、大きな社会的価値があります。銀行の各部署から集められたプロフェッショナルや関連会社のエキスパートとタッグを組み、住宅ローンシステムの開発要員の一員として、後世に残るシステム開発に従事できることにもやりがいを感じます。
私自身の成長という意味でも、難易度の高いシステム開発をスマートにこなすチームメンバー、複雑な課題を俯瞰的にとらえて解決策を見出すPMOに身近で接することで、着任10ヵ月足らずの期間にもかかわらず多くのIT知識とプロジェクトマネジメントスキルを習得できました。引き続き自らの価値を高め、MUFGグループに貢献できるよう業務に励んでいきたいと思っています。